世界に誇れる国産ジャーナルをめざして

Abstract

2020年1月より狩野彰宏氏とともにIsland Arc (IAR)の編集委員長を務めることになりました。4年周期で編集委員長ペアの代替を繰り返し,我々が7代目となります。前編集委員長,とりわけ田村芳彦氏の現状に対する強い危機感と問題提起に対して私見を申し上げたところ,ご指名に預かりました。四半世紀を超える伝統に敬意を表しながらも,狩野氏及び新生編集チームのメンバーと一緒に,誇りを持って世界に発信できる国産ジャーナルへIARを復活させるため努力して参ります。 IAR創刊1992年当時,創刊に尽力された先生方も含めて,誰も現在のような学術ジャーナルの出版形態を予想し得なかったことでしょう。90年代後半にはインターネットの普及と電子文章ファイルの標準規格誕生によって,研究成果の紙媒体を通じた発信の時代から,学術成果・情報を電子ファイルなどのメディアとして発信,閲覧できる時代が訪れました。私はその大きな変貌を遂げた移行時代に初期キャリアを歩んできた世代で印刷原稿郵送による論文投稿を経験しています。海外の知名度の高い国際誌への投稿には今とは比べられないほど時間を要しました。あの頃はIARのような国内拠点の国際誌には迅速さの点で大きな価値があったはずです。しかし,既存の紙媒体ジャーナルがほぼ電子化され,2013年以降の本紙同様,冊子体を持たないオンラインのみの雑誌(電子ジャーナル)が多数創刊されると,海外の国際誌への論文公表が格段に身近なものになりました。また,オンライン化が学問の変化と学界の競争を猛烈に加速させ,結果的に論文公表のスピードの重要性が大きく増しました。気が付けば私も含めて,迅速さに不満を持ち公表の場としてIARを選ばなくなっていったように思います。国内の成熟していない査読文化にも少なからず原因があったのかもしれません。しかし,田村氏の問題提起は,IARが⽇本地質学会の公式な国際誌であって,我々のフラッグであることを思い出させてくれました。国産国際誌の不要論もありますが,海外の国際誌の編集チームにどれほどの日本人研究者がいるでしょうか?国際競争力の高い優れた研究を国際発信できるプラットフォームを国内に継続して持つことには大きな意味があると思います。 近年の無数の電子ジャーナルの競合は高IF値の呪縛,購読契約料の高騰,オープンアクセスの潮流,捕食出版ビジネス等の新たな問題等を生み出した一方,網羅的な学術情報の検索が複雑系を取り扱う地質学分野の情報収集に大きな革新をもたらしました。情報のデジタルアーカイブ化によって書庫にひっそり眠っていたような古い研究データもデータ科学として活かされる時代です。地球科学分野でもプレプリントサーバ利用が急速に拡大しています。この先も学術ジャーナルを取り巻く環境はダイナミックに変化していくでしょう。IARが変化のなかで孤立することなく,新しい流れを生み出すプラットフォームを提供すべく,柔軟に対応していきたいと思います。どうぞ積極的に論文投稿と特集号企画の起案をしてください(特に若い世代!)。IARを世界に誇れる国産ジャーナルにしましょう。

Publication
日本地質学会ニュース誌 (The Geological Society of Japan News), v. 22, no. 1, p. 9